私はセーラームーンになれない。

80's産トランスジェンダーの備忘録

おっさんずラブとは何だったのか(上)

拝啓、OLロスの御婦人、諸兄方につきましてはお悔やみ申し上げます。心中お察し致します
 
機会的にも一度文章化して遺しておくべきタイミングでもありますし、ここでOLについての雑感、所感、感想等々を述べておく事にします。
 
長いため上中下と三編に分けた記事になりますがこちらが上編です。
宜しくお願い致します(?)
 
因みに私はLINEスタンプをはじめ、関連グッズの予約は一通り済ませました。
 
 
はい、ええ。
 
 
 
 
 
 

おっさんずラブ主要登場人物まとめ①

 

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おっさんずラブ通称OL(※以下OL)には少数ながら魂のこもった魅力的なキャラクターが登場する。
彼らについての紹介を所見と感想を交えつつ雑記していく。
 
 
 
 

 

 
 

 

◼️春田創一(はるた そういち)

 
・無意識ジゴロのノンケ(異性愛者)
 

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冴えない非モテ、ヘタレ、営業成績も今ひとつというより全くダメ、という三種の神器を兼ね備えたトリプルSの主人公。33歳。
平凡極まる彼の人生は上司である部長「黒澤武蔵(くろさわ むさし)」の愛の告白により一変していく。

 

 

春田創一(※以下春田)ノンケ──所謂異性愛者ストレート男性である。
彼が言うには理想のタイプは「ロリ巨乳」
実に分かりやすく、またどこにでもいそうなキャラ設定である。
 
周囲の評価は一辺して「お人好し」
仕事はからきしだけど、その人の良さだけで周囲から愛されるムードメーカーである。
 
ところが、だ。
 
その彼の一見「短所」でもある「人の良さ」が周りの女…では無く男性陣を次々と魅了してしまうというヘタレ全方位モテ(BL)」を体現させていく事になる。
 
部長は彼のそうした「ダメだけど愛らしい」所に恋慕の情を抱いており、それは本編においてハッキリと描かれている部分である。
 
要するに「ダメな男ほど可愛い」の典型である。
 
また部長の恋のライバルであり、春田を巡る異色の三角関係の一旦を担う登場人物「牧凌太(まき りょうた)」も、1話から既に彼の「ダメだけど愛しい(可愛らしい)」という煎じ詰めて「優しい所」に惹かれたと思しき描写が分かりやすく描かれている。
 
幼馴染の女子「荒井ちづ(あらい ちづ)」も、結局の所「全然タイプじゃない」筈なのに、最終的には春田の優しさに惹かれ、恋愛感情を持つ自分に気付き彼に告白する事になる。
 
こうなってくると彼は非モテどころかモテモテという事になるのだが、恋愛感情を示すキャラクターの内訳がほぼ男性という所にこの作品の肝がある。
 
OLにハマった女性視聴者層の多くに所謂「腐女子」の方が少なくないのは言わずもがなだが、腐女子からするとこうしたOLの設定はBL界隈において王道を通り越してベタもベタ、鉄板オブ鉄板の設定である。
 
むしろこのベタベタな設定を三次元で体現し切った俳優らの底知れぬ実力というか再現力に衝撃を受け、頭を鈍器で殴られた思いの人も多かったのではないだろうか。
勿論純粋な中の人ファンにとっても高い演技力、表現力で魅了した本作は忘れ難い作品になった事だろうと思う。
 
話を春田に戻すが、前述したように彼、春田は「異性愛者、ストレート男性」である。
 
その彼を巡って「ナイスミドル(部長)」と「年下エリートイケメン後輩のゲイ(牧)」が奪い合うという構図もコミカルではあるがある種ベタベタの設定である。
 
いっとき商業BL市場でも「ブサイクモテ」のジャンルが隆盛を極めた時勢があるが、古くから「ダメ男モテ」というジャンル、属性は存在する。
「うる星やつら」などがその典型だろう。
 
ただ間違えてはいけないのがこれは飽くまでフィクション、どこまでいってもファンタジーであるという点。
その理由は以下だ。
 
春田演じる田中圭はイケメン、二枚目の俳優である。
その彼のビジュアル、そして好演があってこそ成り立つ作品だった事は決して忘れてはいけない。
田中圭演じる三枚目キャラ、という意味では単純にギャップ萌え」に通じる側面もあるだろう。
 
彼が本当に外見的な意味で三枚目…非イケメン男性であったら作品として視聴するに耐え得るものになったかは疑問である。
 
そういう意味では設定、とは言え田中圭という俳優の外見的な魅力に頼っている部分が相当量ある事は疑いようがなく、そこにはある種の「ズルさ」や「視覚的な説得力」に裏打ちされた…というより明確に打算的な装置の采配、演出の力を感じざるを得ない事も明記しておきたい。
 
しかしどの道「田中圭」という俳優の実力の高さ、また本作におけるキャラクターへの自己投影、役作りにかける情熱に改めて舌を巻いた、或いは再評価、という流れや所感が多く見られるのも納得出来る部分である。
 
それ程までに、本作における田中圭、また春田創一というキャラクターには魂が込められていた。
 
それが間違いなくこの作品の人気を押し上げる事となった要因であり、また切っても切れぬ重要な要素であったと断言する事には何の躊躇いも迷いもない。
 
「OL」には単純に「BL」「恋愛コメディ」としての側面の他に、ダメダメな主人公「春田」という1人の人間の成長物語という側面も主要テーマに含まれていたであろう事は容易に見て取れる。
 
しかしその「成長物語」という点で言うと、着地点を見た視聴者の間では賛否が分かれている。
春田は結局成長したのか?という部分についてだ。
 
春田の行動様式を見ていると何だかんだと迫ってくる人間に対し男女問わず断れないだけ、の様に一見見える。
 
部長にしろにしろ、ちづにしろ、だ。
それは非常にふわふわとしていて、尻の座りが悪い。それどころかまるで自分の想いなど存在しないかの様にすら見える
 
しかしこれも何度も見ていると分かるのだが、結局春田はかなり早い段階で自身の想いに気が付かないまでも、明確にその矛先を一人の人間に傾けている。
 
その相手は紛れもなく「牧」である。
 
単なる後輩に対する態度にしては、ちょっと過干渉というか過剰な愛情を彼は初期の段階から露にしている。
 
言葉と行動は裏腹と言うが、牧のキスだったり告白だったりを、戸惑いつつも拒絶して終わらせる、という事を彼は決してしなかった。
 
あとになって見れば最早それが答え、とも言えるのだが、それが理解できるのは最終話を見た今だからこそ、とも言える。
 
そうと知ってから見返してみると、かなりの割合で牧には特別情」を傾けていた事が分かる。
 
彼は一見分かりにくいものの、部長の告白に対しては返答を明らかにしているし、ちづの告白に対しても「情」で抱きしめてしまったものの、その後は結局何事も無く帰宅している。
春田の立場から見れば、幼馴染の女子が泣きながら告白してくれたのに抱きしめただけで終わった、というのがそもそも凄い事のように思う。
結局はその後ちゃんと牧の元へ帰っている。
 
それらを目の当たりにしてしまった牧が自身の不安から春田を拒絶してしまうのも非常に分かりやすい情動ではあるが、あの時でさえも春田はハッキリとこれからは家事とか手伝うし牧のお父さんに認めて貰う様に努力する」と泣きながら別れを願う牧に対し懇願している。
 
どう考えても単なる男友達だと思っている人間に対する言葉では無いだろう。
 
ここまで見れば、いや最終話を見たあと改めて見返せば、春田の行動様式は基本的に分かりにくくも牧を主軸に回っていた事が行動の端々にしっかりと表れている。
 
一見浮き草の様に流され続けるだけの男に見えるが、マイナスにしろプラスにしろ彼が感情を剥き出しにするのは主に牧に対してのみで、分かりにくいながらも彼は彼で一人の人に向かって確かに前進、歩み寄ろうとしていたのだ。
 
最終話では押し切られる形で部長と結婚しかけるが、これも冒頭で、或いは劇中牧が語った彼の「優しさ」が招いた悲劇、という事になるのだろう。
この場合、悲しみに暮れるのは部長という事になるが、最終的に自分の想いを確信した春田は能動的にハッキリと思いの丈を伝えに牧を探して奔走する。
 
牧を探して街中を走るという描写は2話のリフレインであり、しかし2話では不明瞭だった牧への想いを最終話では恋愛感情である事をしっかり認識して走っている。
 
この点で、彼は遅まきながら、優しいが故に他人を傷つけながらも、しっかりと成長しているのである。
 
そして牧を見つけた春田はかつて牧が告白した様に、今度は春田が牧に告白する。
 
「俺は牧が好きでずっと一緒にいたい」
「俺と結婚して下さい」
 
こうして、彼は紆余曲折を経て自分の想いを含め、牧への想いに対しても漸く明確な回答を示したのだった。
 

(補足)

春田が部長に惚れられた経緯はかいつまんで言うと彼が部長の足に靴を履かせた為、という理由がある(かいつまみ過ぎだが)。

そのエピソードは2話で部長の口から語られるが、その時ガラスの靴を持つ王子様は春田で、姫が部長だった。

しかし最終話では2話の、というよりその当時の部長とのエピソードの対比、オマージュという形で結婚式を脱し牧を求めて奔走する春田の靴が片足壊れ、春田は壊れた靴を片手にそのまま走り続ける、という演出が入る。

 

かつて部長に靴を履かせ、そして部長の運命の人になった春田が、今度は自らの運命の人の元へ自分で壊した自分の靴を手に走る、という描写は春田の明確な決意の表れであり、自らの手で壊した運命の修復に恐れず立ち向かう、という様な意味を汲み取れる。

それは不器用ながらも彼が運命の恋、未来へ向かって走り出す、というニュアンスも含むのではないだろうか。

 
しかしたった7話の内にここまですったもんだを詰め込んだのも凄いが、たった7週間の内にいとも容易く我々をロスに陥らせた田中圭と林遣都という凄まじいカップリングに今後のドラマ界の光明を見る想いである。
 
恐らくOL人気を良しとしたテレビ局は第二第三のOLを打診してくるだろう。
 
それが女性同士なのか、はたまた男性同士なのかは分からないが、後続する作品はいずれもドラマ界(BL)においてパイオニアというか始祖となったOLと並行して語られる事だろうし、この作品のもつ馬鹿馬鹿しいというより神がかった熱量みたいなものを果たして超えられるのかは些か疑問ではある。
 
我々がいくら「見たい!」と熱望しても彼ら(田中圭や林遣都)は現実に存在する俳優であり、いくらなんでもOLにばかりかかずらわってる訳にもいかないだろう。
 
ドラマを終えた今我々が特に熱望するのは恐らく「牧春(牧)の何でもない日常パート」だったり「武牧スピンオフ」だったり、或いは「if〜部長END」だったりすると思うが、二次元ならともかく三次元の俳優にそれを求め続けるのも酷な話である。
 
OLは果たして「神話」になったのか。
それとものちの「乱立(創造と破壊)」の礎となったのか。
 
それこそ我々にとってはさても全く分からぬ未知そのものであると言える。
 
 

◼黒澤武蔵(くろさわ むさし)

 
・遅まきながら同性愛に目覚めた、広義的にはバイセクシャル(両性愛)であろう既婚男性
 

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本作品におけるメインヒロインを冠する55歳のナイスミドル。
演じるは舞台俳優としても高い人気と演技力を誇る実力派俳優、吉田鋼太郎である。
 
OL人気をここまで不動のものにした大きな要因は田中圭は勿論、吉田鋼太郎演じる「おっさんヒロイン」の力も非常に大きい。
いや、欠かす事のできぬ存在という意味では田中圭以上かもしれない。
 
OL初期は主に黒澤(※以下部長)と春田のコミカルな恋模様を主軸に描かれる。
 
そうした物語の導入部で一見笑っていいのか泣いていいのかわかりにくい計算された演出で視聴者の心をグッと掴み、のちのガチBL」の流れへ持っていく手腕は実に見事だった。
 
公式でも「メインヒロイン」と明記されていた部長だが、物語が終焉を迎えた今、真にヒロインだったのは言わずもがな春田」である。
 
そうしたミスリード、狂言回し的な役回りを吉田鋼太郎という実力派俳優が演じきった部分にも、この作品の優れた側面を見出す事が出来る。
 
部長こと黒澤武蔵は、職場では非常に仕事の出来る、部下にも信頼された頼れる上司である。
その渋み極まる彼が春田に対しては「はるたん」と可愛らしくあだ名で呼び、乙女の様な一挙手一投足を見せるに至る多くの演出は、我々視聴者をときめかせるには充分過ぎる破壊力を秘めていた。
 
何故か、徹底して可愛いのである。
 
これが対女性向け(NL)の演出であったなら、キモいの一言で終了したかもしれない。
しかし、そうしたBL的なノリを排除して見た場合でも、部長の愛情の示し方というのは徹底して紳士(乙女?)そのものであった。
 
例えば春田に抱きつく描写が何度もあったが、どちらかと言うとセクハラというよりまるで子供が母親に縋るような、そんな性的な側面を一切感じさせない姿はセクハラというよりなんかもう笑っちゃうというか、しょうがないな…と思わせる計り知れない説得力の様なものがあった。
しかしそれも吉田鋼太郎という俳優の実力に裏打ちされたものである。
これは田中圭の項目と同様、演者の役への没入、模索の賜物である。
 
OLにはBL作品同様多くのCP(カップリング)が存在する。
 
本筋では牧春(牧)というCPがメインカプとしてその後描かれていくが、展開次第では黒春(黒)も充分有り得たCPなのである。
 
それ程までにOLを見返せば見返すほど、彼が春田に(人間的に)与えた影響は大きい。
 
むしろ世が世なら黒澤ENDも別枠で用意して欲しいレベルですらある。
 
舞台俳優ならではの声量としっかりした演技、それをBLというコミカルな役どころへ落とし込む事に成功したのはひとえにスタッフやブレーンサイドの知略の勝利だろう。
 
普通に考えたらどう考えても「キモい」にしかならなかったであろう部長の役柄がここまで徹底して可愛く見えた」のはやはり俳優の実力と言って差し支えない。
 
OLとは、部長や春田をはじめとするそうした末恐ろしい演技力をもつ俳優らの魂の武道会でもあるのだ。
 
恐らく、演じている彼らもこれまでに無いというより無さすぎた役柄で大変戸惑った事だろう。
しかし彼らは役柄から逃げなかった。
スタッフや演出の勝利もあったろうが、ここまですんなり物語へ没入させる空気を作ったのは演者の力であり、そしてそれこそが第一である。
 
やはりOLとは魔物、いや、天才的な俳優の跋扈する巣窟なのである。
 
 

◼牧遼太(まき りょうた)

 
・魔性のゲイ(同性愛)
 

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主人公春田を巡る三角関係の一端を担う、若きエリートイケメン後輩ポジを、これまた実力派俳優の林遣都が演じる。
 
本作は導入から中盤までは主に部長×春田の流れで進んでいくが、後半からは牧×春田の流れへ移行していく。
 
牧遼太(※以下牧)は1話で春田が参加する合コンにピンチヒッターとして相席し、そこで初めて顔を合わせる。
(運命の人を探して合コンに足繁く参加していた春田だが、既に1話時点で運命の人には会っていたのだ)
 
1話時点で牧の抱く春田の印象は、酔いすぎた春田を無理やりタクシーに乗せて強制送還し、走りゆくタクシーを見ながら「そらモテねーわ…」と呟く程度のものでしかなかった。
 
しかしその後本社から春田の勤務する「天空不動産」への営業所勤務を命じられ、牧は名実共に春田の後輩という役割を与えられる。
 
牧は営業所配属となったその日から、本社で自身が行っていた業務との温度差、また春田が外回りで見せる成約に結びつかずとも街の人から愛される情の深さを見るにつけ、次第に部長同様、牧も急速に春田へ惹かれていく。
 
母親に三行半を突きつけられ、実家で一人暮らしをする事を余儀なくされた春田は気まぐれで牧をルームシェア、という形で実家へ誘う。
 
翌日牧は春田家へ転居、同居生活が始まる。
 
恐らくこの時は明確な恋愛感情は抱いてはいなかったものの、間違いなく「先輩(人)」として惹かれていただろう事は見ていれば分かる。
 
彼が春田に明確に恋愛感情を抱く事になったきっかけというか事件は、身を呈して部長を助けた春田の賢明な純真さ、その後病室で聞いた部長の春田への心情の吐露、更に帰宅したあとに見てしまった部長から春田への熱烈な日報のメッセージを目撃した辺りだろう。
 
その直後シャワーを浴びていた春田に突撃し、本作最大の名言(迷言)
 
「春田さんが巨乳好きなのは知ってます。でも、巨根じゃダメですか」
 
という台詞と共に春田へキスをする。
 
視聴者(というか主に腐)が「え…なにこのドラマやばいぞ…」と本格的にざわつき始めたのもこの頃だろう。
なんだこれ…なんか…凄いぞ…と。
 
そのキス事件(?)を契機に、部長→春田←という三角関係が成立する。
 
当の本人である春田はキスの意味も分からぬまま翌日を迎え、牧は自身の本意に蓋をして「あんなの冗談ですよw」と誤魔化す。
 
春田は異性愛者なので内心ビビりまくっていたが、牧の冗談ですよ」発言を受け一安心。
 
と思いきや、更に翌日、春田は部長から本社屋上へ呼び出され、部長が春田へ恋心を抱くようになった経緯を聞かされる。
 
2人が屋上で会っている事を知っていた牧は2人の間へ突撃し、そこでまた本作における屈指の名(迷?)シーン春田の取り合い」を勃発させる。
 
春田は叫ぶ
「俺の事で喧嘩しないでくださーーーい!!!!」
 
昼休み終了のベルと共に2人はさっさと仕事に戻っていく。
取り残された春田は訳がわからないまま、呆然とする。
 
これも前述の繰り返しになるが、やはり采配の勝利としか言えない。
要するに林遣都の起用である。
 
林遣都自体、これまで演じてきた役柄に男性同性愛者の役が多い。
どういう経緯で牧役を林遣都に決定したのかは謎であるが、天才的な起用だったと言わざるを得ないだろう。
それゆえ、田中圭同様林遣都再評価の流れが来ている事も容易に頷ける。
 
つまり主要三者が実力派俳優で構成されているのである。
その彼らが全力で挑んだ作品が、ジャンルがどうあれ詰まらなくなる訳がない。
 
三者が演じる上では試行錯誤と困惑、試練の多い役柄であった事も容易に想像がつく。
 
でもだからこそ、だったからこそ、ここまである種リアルで生々しく、また魂のこもった演技を惜しみなく発揮し、我々視聴者を魅せるに至ったのではないだろうか。
 
恐らく役者にとっても非常に演じ甲斐があり、また役者として自身の持てる全てをぶつけ合えるフリースタイルダンジョン的な側面もあった事と思う。
 
変な話だが、仮にこれらを男性同性愛者が演じていたら、かえって予定調和的な演出、というより逆につまらないというか、薄っぺらい感じになっていたんじゃないだろうか。
 
本来そうでなかった(異性愛者の俳優だった)からこそ、ここまで体当たりで魂のこもった作品にかえってなったのではないか。
 
そういう化学反応がイレギュラー的に発生した…というより半ば偶発的、もしくは奇跡的に発生した、という偶然の事故、産物、または作用、影響が作品に与えた側面も大きかったのではないかと思う。
 
男女モノの恋愛ドラマで例えば田中圭が女優と恋愛沙汰になる、という脚本は、ある種の予定調和がある。
それは異性愛者同士が演じる恋愛ドラマだからである。
 
そしてそれは、裏を返せば新鮮味が無いと言えば無い。
物語中のキャラクター達の心情や立場の移り変わりなどに勿論ストーリーとしての悲喜こもごもはあるが、異性愛マジョリティスタンダードのキャラを演じる、というのはそれだけある種「当たり前」を見せられているという事でもある。
 
なのでかえって、彼らが全力で「同性愛(あるいは両性愛)」を演じた事で、筆舌に尽くし難い熱量、生々しいライブ感、の様なものが生まれたのではないかと私は思っている。
 
話が逸れたが、屋上での事件の後、ちづの計らいもあり、牧と春は一悶着を経て一応一旦の落ち着きを見せる。
 
春田の項でも触れたが、ちづに叱咤された春田が全速力で街中を走り牧を探すという描写は、即ち既にこの時点で春田の想いを表す、といった描写になっていたのだろう。
 
本当に春田の言う通り「裏切られた想いだった」のであれば、翌日素直に「出て行ってくれ」と告げた筈だ。
 
しかし春田はちづに叱咤されたという背景を抜きにしても、彼を拒否、或いは拒絶しなかった。
 
それどころかしっかりと「牧との生活は楽しかった」というモノローグまで挟んでいる。
 
最早何周したか分からない程見返した本作だが、改めて見返せば見返す程、春田の想いというのは曖昧な様でいて、かなり初期の段階から牧へ傾いていたというか、惹かれていた事がよく分かる。
 
牧の項目が長くなるが、牧はかなり早くから自身がゲイ(同性愛者)だった事を自覚、女親や妹へカミングアウトしていたと思しき描写がある。
 
春田を実家へ招くシーンでその片鱗が垣間見えるが、そんな彼が異性愛者である春田を最終的に落とすに至った…というのは、大変な功績…というより、半ば化け物じみた凄まじいもの、所謂「モテ力」を感じざるを得ない。
 
ここで参考にすべき牧のモテ力は枚挙に暇がないが、まず一つ料理上手」というスキルがあげられる。
 
彼が春田の心を(その当時は後輩兼友人としてだが)掴んだのは、単に料理スキルと「胃袋を掴んだ」というシンプルなモテ力にある。
 
やはり男を落とすには料理…なのか…
という感じだが、彼の場合モテ力は料理だけに留まらない。
 
家事掃除を始めとする炊事洗濯に関する生活力、好きな男の尻を叩いて家を守る母親、妻としての能力の高さが凄い。
 
理想の妻としてよく語られるのが良妻賢母である。
 
彼はしっとり優しく男を密かに立てるタイプではない。
むしろ母親…というよりオカン級に男に厳しくあたって世話をするタイプのかかあ天下系の(良)妻である。
 
春田は母子家庭育ちで、奇しくも、図ってか図らずか、田中圭自身も母子家庭である。
 
それ故(?)本作では明確に春田に対し牧は徹底して「母親(母性)」を、対する部長は「父親(父性)」という極めて対照的な役割で描く事によって彼らの存在を両極端なWヒロイン(?)として、また象徴的な役割として描いていた。
(※出て行った春田母の代わりにやって来た牧、そしてその後出て行った牧の代わりにやってきた部長、という構図からもこの辺は明確に意図的な演出があったと思われる。更に言うと、ちづは「妹」の象徴だったのかもしれない)
 
33歳にして無意識的にマザコンであったであろう春田が牧のそうした年下でありながら母親然とした性質に、同性という枷を超えて次第に惹かれていったのも頷けると言えば頷ける。
 
対比として部長は徹頭徹尾乙女でありつつも、やはり母親というよりは明確に「父親(父性)」の象徴として描かれている。
 
ラストの春田の牧に対するプロポーズの返答が「…おかえり」「…ただいま」である事も「家庭」というもののイメージに対する春田の深層心理が映し出されていたのではないだろうか。
 
となると、母親っぽければ誰でも良かったのか?
という事になるがそういう訳ではないだろう。
 
恐らく春田は牧に対する恋愛感情を認めはしたものの、やはり本質的な部分ではノンケ(ストレート、異性愛者)である事に間違いはないと思う。
 
これはBL作品で顕著というか、ありがちな設定だが、ゲイに告白されてノンケが恋に落ちる…といった流れで決まってノンケ側が言うのが男が好きなんじゃない、お前だから好きになったんだ!」的な台詞である。
 
春田の場合もそうだろう。
 
恐らく牧と付き合い始めたあとでもロリ巨乳が迫ってくれば体は反応するだろうし、その度牧の膝蹴りが入るのだろうし、そして春田は謝るんだろう。
 
でもである。
 
でもだからこそ、BLというのは尊いのである。
 
その性別という枠や概念を超えて「お前だから好きになった」に心を打たれたというかそれが見たくて腐ってるのは何も私だけじゃない筈で、BLが時に少女漫画=人間愛と語られるのは作品としてそうした側面、性質を持つからである。
 
我々女子(?)というのは総じて「純愛」というものに弱い。
 
それが男女のみならず、男×男、それもイケメン同士の純愛だったなら、正直ハマらない要素が無いのである。
 
牧は本作において徹底してそのテンプレ的な「BLキャラ」を演じきってくれた。
 
物語が進むにつれ「部長も切ないけど牧春(牧)尊い…」となってしまう(腐)女子が多発するのも当然過ぎる程当然である。
 
そもBLというのは、ピュアラブストーリーで、我々が見たかったものを実力派俳優が演じきってしまったのだから、そんなものハマらない道理が無いのである…。
 
補足だが、ラストの春田告白、からの「ただいま」「おかえり」だが、田中圭の「おかえり」はまるで出て行った母親に対して泣きじゃくりながら喜ぶ子供の様にも見える。
 
そういう視点で見ると、OLは非常にマクロ的な意味で「愛」をテーマにした作品なのでは無いかと思うが、考え過ぎだろうか。
 
 

◼荒井ちづ(あらい ちづ)

 
・BLでは必ず1人出てくるサバサバしつつも可愛い負けヒロイン
 

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春田の幼馴染であり、兄である荒井鉄夫(あらい てつお)が経営する居酒屋「わんだほう」の看板娘。
理想の男性像は「何でもやってくれるイケメン執事」
 
演じるはだーりおこと内田理央である。
 
BL作品は主に「女性が出てくる作品」女性が出てこない作品」に大別出来る。
女性が出てくる作品、で言えば「主人公に寄り添いつつ、時に恋愛感情を抱く女子」というのもまた、鉄板的な設定であり、ありがちな役割である。
 
腐女子の間では「女子が出てくるBL=地雷認定」という風潮もあるので、どちらが良いとか悪いとかいう議論はここではしない。
 
しかし作品内において、重要な女性キャラが出てくる、というのもBL作品にはよくあること、というのは今一度明記しておきたい。
 
そして本作品におけるちづという女子は、まさにその鉄板キャラの系譜そのものなのである。
 
春田を幼い頃から知っており、春田からは全く恋愛感情を抱かれていない。
そしてそれはちづも同様である。
 
お互いに夫婦漫才的なやり取りを行う間柄で、色っぽい空気や雰囲気は一切無い。
 
が、しかし。
 
物語が進むにつれ、兄の経営する「わんだほう」が悪徳不動産業者に騙され不法に売却されかけてしまう。
それを春田と牧…というか主に牧の活躍が9割なのだが、ともかく2人の計らいにより、わんだほうの売却は寸での所で阻止される。
 
春田との関係、ちづの想いが一変するのもこの辺りである。
 
春田の冴えないながらも優しい性格に、無意識に惹かれ始めるちづ。
 
事件解決のお礼に春田家へケーキを持参して訪れるちづだが、玄関に入った途端上半身裸の春田が牧をバックハグする姿を目撃してしまう。
 
我々の業界ではご褒美です…と言いたい所だが、一応彼女はそのテの属性(腐)を持たない一般的な女子なので、驚きと戸惑いの中、思わず春田家を後にし、1人で買ったケーキを食べ「甘…」と笑い(半)泣きする様が何とも切ない。
 
ここで改めて記述しておきたいのが、ちづは非常に先進的な女性である、という事だ。
 
そも番組告知ポスターのコピーにもその片鱗は見て取れる。
 

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OLは主要登場人物全員のコピー入り広告が制作されたが、ちづ、彼女に充てられたコピーは「ライバルが女。そんな常識、今はもうない。」である。
 
登場時からして、ちづは一見「はぁ?」と思ってしまうような春田の告白に、何の偏見も差別も、また奇異や色眼鏡で見ること無く「部長から告白された」という春田の相談を「いいじゃん」と肯定している。
 
これは一見スルーしがちだが、実は大変な能力である。
 
LGBTが認められ始めたと言われる昨今でも、いや、Tの当事者である私でさえも、仮に同様の相談を例えばストレートの男性から受けたら、申し訳ないがそこは隠さず言ってしまうと好奇心剥き出しに聞いてしまうだろう。
 
でもそれは仮に私が自身の「T」的な要素を好奇心剥き出しに聞かれるのが非常に嫌なのと同様、本来してはいけない事なのだ。
 
人間というのは実に単純で、分かっていてもついやってしまう。
それはマイノリティである私でも、自省して然るべき点である。
 
セクシャルマイノリティの当事者が望むことは、恐らく気を使われる事でも奇異の目で見られることでも無関心を装われる事でも無く
 
「へー、そうなんだ」
 
「当たり前の事」「別段騒ぐ事でもない事」として扱われる事、ではないだろうか。
 
私ならそう思う。
 
「ふーん、で?」
 
と単純にその先の話を促して聞く、とでもいうような。
 
そしてそういう世の中であって欲しい、と私なんかは思う。
 
この辺は個人差があるだろうが、やけに気を使われるのも特別視されるのも嫌だというのはマジョリティからしたらワガママだと一瞥を食らうかもしれないが、それだけまだまだ「当たり前のこと」では無いのである。
 
それら(同性愛などセクマイ関連の事象)が「当たり前のこと」になれば、誰も一々騒がないだろう。
 
そして、私が若かった時分より、遥かに世間の理解の深度は進んでいると思う。
 
若い世代を中心に
「へーだから?」
という人がこの先多数になれば、世界は必ず変わると私は信じている。
 
嫌悪するとしないとに関わらず、だ。
 
 
話が逸れたが、ちづはそういう意味では非常にリベラルで、また自由な発想の持ち主である。
 
春田の「部長から告白された!」
という、一見「えっ!?」と驚いてしまいがちなエピソードにも
「へーいいじゃん!」
と即答し、また
 
「何がダメなの?上司だから?」
 
と徹底して「部長が男性だから?」という理由を春田に問い質したりしない。
 
むしろ逆に春田が
「男だからだよ!」
と答える始末である。
 
それに対してもちづは
「でも春田が告白されるのなんて何年ぶり?」
「嫌いなの?部長さんの事?」
「嫌いじゃないならいいじゃん!私、部長さんの恋応援する」
 
とまで言ってのける。
 
まぁこれもBLがファンタジーと言われる由縁ではあるが、大抵女子が登場するタイプのBLでは女性キャラというのは得てし「物分りが良すぎる程良く、主人公を応援するポジション」として描かれる事が多い。
 
現実にこうした女性も勿論いるだろうが、「至極当然の事」と何の偏見も差別も無くすっと受け入れられる女子、というより人間…というのは現実的にはまだまだ多くないのではないだろうか。
 
そういう意味ではとても架空的な存在ではある。
 
またこれもBLに出てくる女子にありがちだが物分りが良すぎるほど良い」に加え「普通に可愛い」「性格が超良い」と、傍から見たらなんで非モテなのよ…という高スペック女子、というのもよくある設定である。
 
ちづもその例に漏れず、顔だけで無双できるだろ…というレベルの美人だが、春田同様何故かモテない、みたいなカテゴリに分類されているのはわかりやすいファンタジー的要素の一つでもある(現実に一人もいないとは断言しないが)。
 
結局ちづは理想の男性像である「イケメン執事」から遠く離れた春田に対し、マロの助言を受け春田への想いを再確認し告白する事になるが、彼女の想いは最終的に春田に受け入れられる事は無かった。
 
最早そこまで見ていれば春田の想いは明確過ぎる程明確だろ…と思うが、多くの悲恋や紆余曲折を経るのもまたBLの醍醐味である。
 
牧と別れてから一年経っても結局ちづという最良とさえ言える女子(しかも美人)と付き合わなかった、という春田のある意味牧ガチ勢っぷりに、改めて牧の魔性ぶりを再確認する想いである。
 
最終話でちづは念願のイケメン執事(的な)彼氏をゲットし、幸せそうに腕を組むというオチを見せる。
さすが外資の代理店である。
イケメンを通り越して最早最上級のルックスである。
 
 
(以上「おっさんずラブとは何だったのか(上)」終わり。中編へ続く)
 

→続編「おっさんずラブとは何だったのか(中)」

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